楽しい100歳。

INTERVIEW

芳賀日出男
「楽しい100歳。」を語る

民俗写真家

人は年をとりますが、
写真は年をとりません

1921年中国大連生まれ。カメラが趣味だった父親の影響で小学生の頃に写真の世界に出会う。慶應義塾大学文学部卒業。日本写真家協会の創立に携わった後、58年、稲作儀礼を追い続けた作品を集めた初の個展『田の神』を開催し、翌年、同名の写真集を刊行。日本で「民俗写真」という分野を切り開いた第一人者として、国内外から評価を集め、これまで101カ国の民俗祭礼を記録する。70年の大阪万博では「お祭り広場」のプロデューサーを務めた。85年、芳賀ライブラリー設立。現在、フジフイルム スクエアにて「民俗写真の巨匠 芳賀日出男 伝えるべきもの、守るべきもの」を開催中。(3月31日まで)

自身の作品を保管する東京・高田馬場の芳賀ライブラリーにて。

その土地に根付いた四季折々の祭礼や年中行事を伝える「民俗写真」。その価値にまだ誰もが気づいていなかった時代から、地道にその風景を撮り続け、その尊い精神性や文化的価値を、観る人に教えてくれる写真家、芳賀日出男さん。日本を始めとして、これまで訪れた国は101カ国、保管されている作品だけで40万点以上にのぼる。
96歳を迎えてなお、その眼光は輝き、発する言葉は力強い。「長生きは楽しい。長生きはおすすめですよ」と笑う芳賀さんの、人生を長く楽しむ極意とは。

ー民俗写真の先駆者である芳賀さんは現在96歳、カメラを手にして90年以上。長生きしてよかったと思えるのはどんなことですか?

いろんな人にたくさん出会えたことです。中でも、自分と同じように長生きした人と会って、いろいろな話をするのが今はとても楽しいですね。民俗撮影を通じて、日本中、世界中の友人との出会いに恵まれました。

ー芳賀さんが「民俗写真」を撮り始めたきっかけを教えてください。

父は満鉄(南満州鉄道)に勤めていまして、私は中国の大連市で生まれ、幼少期を過ごしました。母国の地を踏んだのは、慶應義塾大学に入ってから。長い冬と短い夏しかなかった大陸と比べて、四季のある日本の風土の豊かさに驚き感動したのを覚えています。
「民俗」という分野に興味を持ったのは、大学で折口信夫(民俗学者で柳田國男の高弟)の講義を聴いたのがきっかけです。折口が語る人々の営みを撮ってみたいと、日本中を回るようになりました。

ー今でこそ功績が讃えられていますが、当初は注目されなかったと伺いました。

ええ、世間はまったく無関心でしたね。人物写真といえば、写ることを意識して、格好よくポーズを決めたモデルの写真しかない時代でしたから、それとはまるで"ものの見方"が違う、ありのままの人々の様子を撮った民俗写真は理解されませんでした。でも、私が撮りたかったのは、作為のない自然な人間の姿。カメラを向けていることを、相手に意識させない時こそ、一番いい写真が撮れた瞬間でした。

ー世間の評価が得られない時、どんなお気持ちで乗り越えられたのですか。

ただ自分が撮りたいから撮る。好きだから撮る。それだけでした。いつかは認められるだろうなんて、望むことすらしない。ずーっとダメだろうと思ってましたよ(笑)。一つのことを続ける唯一のコツは、「好きであること」。自分が心から信じられることなら、苦労も苦労と思わないですよ。

「人間(じんかん)至る処に青山(せいざん)あり」。この言葉を胸に、撮り続けてきました。若い人にも、そのときは報いられなくても、長い年月を経れば、必ず報いられる時が来るから、そのつもりで撮っていること、といってきました。

[写真中央] 人々の営みをありのままに、力強く切り取った芳賀さんの民俗写真。

[写真右] 60年前に発行された芳賀さんの初めての写真集『田の神』。丹念に稲作行事を追った。「米は私たち日本人の心とつながり、力の源になっている」。

ー「写真」の魅力とはなんですか。

人は年をとるし、いつかは死にますが、写真は年をとりません。いつまでも残ります。100年、200年なんて、写真にとっては序の口です。
ただね、写真は残す以上に撮ることが大事なんです。その人がいなくなったらその写真は撮れなくなる。撮るという行為に意味があるんです。私もこれまで撮った写真を眺めるたび、いまでも1枚1枚の写真を撮った時の気持ちや情景が鮮明に思い出せます。写真は、撮った人の人生と共に生きているのです。

ー「祭り」に魅せられた理由を教えてください。

祭りとは、人間が生きていく「良い様(よいさま)」です。人は誰でも幸福な時もあれば幸福ではない時もありますが、祭りの時には皆いい顔をします。皆が幸福感に浸れるのが祭りです。そして、どの国に行っても、それは同じでした。国籍なんて関係なく、誰もがただ人間なのだとわかりましたよ。人間の幸福の象徴でもある祭りを撮りながら、私もエネルギーを受け取っていたのだと思います。それに祭りの写真では、その土地の長寿の人を写すことが多くなりましたが、そうした人たちにたくさん会えたことも幸せでした。

60年前に発行された芳賀さんの初めての写真集『田の神』。丹念に稲作行事を追った。「米は私たち日本人の心とつながり、力の源になっている」。

ーとてもお元気そうです。健康長寿の秘訣は?

好きなことを好きなようにする、そのことが長寿・健康の秘訣だったでしょうか。撮影は体力が求められますから、私の場合は写真を撮りに行くことが一番の健康法でしたね。撮影を終えて、その土地のうまい酒を飲めれば最高ですよ。胃腸は丈夫で、何でも食べられました。嫌いなものはありません。

おかげさまで今も歯は32本自前でしてね、新宿区から表彰されたんですよ。好物は肉と刺身。昔は居酒屋の「せんべろ(千円でべろべろに酔える店)」巡りが好きでしたけれど、最近は控えめに、もっぱら家で晩酌です。白ワインか日本酒を少々。たまに水分補給の点滴をするくらいで、血圧の薬さえ飲んでいません。

ー健康のために毎日決めている習慣は?

ありません。好きな時に起きて、好きな時に寝て、好きな時に食べています。75、80を過ぎたころから、何も決め事がいらなくなりました。これぞ、年寄りの特権でしょう!
これをしなくちゃ、ということは何もありません。とにかくしたいことだけする毎日です。楽しいですよ。

ー最後に、「長生きを楽しみにしたい」という人たちに向けて、メッセージをお願いします。

元気で長生きをするといいことばかりですよ。年をとると皆さんにご馳走してもらえますし(笑)。長生きして得したと思わない人はいないでしょう。早死には損ですよ。どうぞ皆さんも元気で長生きしてください。長生きは楽しい。若者よ、100まで生きろ!

フジフイルム スクエア写真歴史博物館企画写真展
「民俗写真の巨匠 芳賀日出男 伝えるべきもの、守るべきもの」

約60年以上にわたって日本のみならず世界各地のさまざまな祭礼を撮り続けてきた芳賀日出男氏は、民俗に対する独自の哲学に裏打ちされたその写真によって、単なる記録写真にとどまらない「民俗写真」の地位を確立した写真家です。本展では、これまで撮影された40万点にものぼる作品から、芳賀日出男氏の原点ともいえる稲作儀礼を中心とした祭礼と人生儀礼をテーマにした約30点を展示しています。あらゆる場所に宿る神々と共に生き、日々の恵みに感謝を捧げてきた日本の祭礼を確かな眼差しでとらえた芳賀の作品は、私たちが生きている「今」という時間を紡いでくれた古(いにしえ)からの長い時間の連なりに思いを馳せるとともに、豊かな美しい自然の恵みに改めて畏敬の念を起こさせてくれます。

【会場】
フジフイルム スクエア写真歴史博物館
【会期】
3月31日(土)まで 10:00~19:00、会期中無休、入場無料
【併催イベント】
3月10日(土)14:00~14:30/16:00~16:30、芳賀日向氏によるギャラリ―トーク
参加無料、事前予約不要、座席はございませんので、予めご了承ください。
http://fujifilmsquare.jp/detail/18010404.html
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